<ストーリー>
里村茜がたたずむ空き地を、無言で通り過ぎた浩平。彼はその後も、普段どおりの陽気さで日々をすごしていますが、ふとした拍子にひどくさびしげな表情を浮かべるようになります。
浩平の変化を、幼馴染み・長森瑞佳は、敏感に感じ取っていました。
そんなある日、浩平から強引なやりかたでデートに誘われた瑞佳は…(ゼロアニメーションより)
<感想>
ONEシリーズ最終回です。心にしみるような作品でしたが、いちぶ手放しで褒めにくいところもあります。さきに、よくないところをあげようかと思います。
まず、設定がストーリー中ほとんど描かれていません。美しい言葉を使用したモノローグは詩的ではあるものの、具体性が皆無で、状況がよくわからないのです。この作品はエロゲーの原作が存在するため、そちらをしっていれば理解できるのかもしれませんが、アニメだけでそれを読み取るのは不可能だと思われます。
また、説明不足が悪いほうに作用し、オチが非常に唐突な感じがして、それまでの衝撃的な流れを台無しにしている感があります。正直なところ、四話構成にして、ラストの数分の部分を、二十分強ぐらいでドラマチックに描いてくれたら、とてつもなく感動的な作品になったのではと惜しくなるほどです。
さて、ここまで悪いところあげたので、つぎはよいところをあげます。絵・音楽とも美しく、とりわけ登場人物の表情はすばらしいものがありました。
とくに主人公の表情は、悲しみと寂しさがない交ぜになった感じで、日常シーンとのギャップもあり、じつに味わい深いものがあります。顔だけで心情を読み取らせるという意味では顔芸といってもよく、とてもクォリティが高いと思います。
そしてエロアニメとしての肝心のエロさですが、感動系の作品にしてはかなり実用性の高いことになっています。
とりわけ、はじめてのセックスのとき、主人公は病気で体がよわっている状態であるにもかかわらず、絆を求めて女の子を押し倒してしまうのですが、相手の女の子が『元気になってからしよ?』などと愛のあるセリフをいいます。もちろんそれでも強引にやられてしまうわけですが、こういう何気ないセリフまわしがリアリティを増すのです。
そして、処女(破瓜の血が表現されている)だった女の子が、やっている最中に普通に感じるようになってしまうというのも、即物的ではありますが、実用性に貢献しています。
とにかく、エロシーン全体に相手への愛が感じられ、エロいのに美しいと思えるすばらしい仕上がりでした。
作品全体としては、感情移入が必要な純愛系の作品なのに、ストーリーがわかりにくいという致命的な弱点があるため、微妙にオススメしにくいのが残念ですが、画面の美しさと詩的なモノローグ、音楽だけでも見る価値は十分だと思います。
※ネタバレ考察…作品の描写だけで読み取れる設定およびストーリーの考察をします。完全なネタバレをふくむので、気にするひとはこの下は読まないでください。
・主人公・折原浩平は幼少のある日、同年代の少女(長森瑞佳)から「えいえんはあるよ」という言葉を聞かされる。
・当時、深い絶望(設定を考えると、家族との死別かもしれない)に陥っていた浩平は、現実世界を見限り、永遠の世界という別世界へと移ることを決意してしまう(どのようにして世界を移動するかのメカニズムはまったく描写されていない)。
・そのご成長した浩平は、視覚障害者の先輩・
川名みさきと恋仲になるが、ここに来て突然、永遠の世界へと向かうという決意が自動的に発動してしまう(なぜいきなり発動したのかは描写されていない。浩平はそのことに気づき、どうしようもない運命のように捉えながらも、抗う努力をしていた)。
・浩平は少しずつ永遠の世界の住人に近づいていく。その過程で、時間がたつにつれ、周囲の人間が浩平を忘れていってしまう。川名みさきが、そして二人目の恋人である同級生の少女・
里村茜までもが、浩平との関係をわすれてしまう。
・だが、長森瑞佳だけは最後まで浩平のことを忘れることはなく、そのおかげでか、浩平は現実世界への帰還を果たす。
・永遠の世界への移動がはじまってから帰還まで、おそらく半年たらず(クリスマスすぎごろから翌年の六月まえ?)ぐらいと思われる。
・里村茜の大切なひと(城島司という名前の幼馴染み)が、かつて永遠の世界に行ったきり戻ってきていないので、このことは浩平の身の上だけに起こった超常現象ではなさそう。
ところで、この物語においては、よくあるゲームのようにパラレルワールド的にヒロインを攻略しているわけではなく、相手が忘れているとはいえ、主人公は数ヶ月のあいだに三人のヒロインと深い関係になります。最後に長森瑞佳とくっついてハッピーエンドという感じですが、帰還したときの描写を見ると、ほかのヒロインたちも浩平のことを思い出したはずです。彼女たちは、いったいなにを思うのでしょうか。